雲解像並列モデルによる日本海ポーラーロウのシミュレーション

柳瀬亘・新野宏(東大・海洋研)、斉藤和雄(気象研)

 


. はじめに 

 近年、計算機能力の向上と数値モデルの発展により、これまでは不可能だった個々の雲を直接解像するモデルによるメソ現象の現実的なシミュレーションが行われるようになってきた。雲解像モデルによる計算対象として興味深い現象の一つにポーラーロウがある。冬季において寒気吹き出し時に日本海で発生するポーラーロウは、海上からの潜熱・顕熱の供給とその結果発生する積雲による凝結加熱がその生成・発達に重要な要素となっており(柳瀬・新野、2000=第15回メソ気象研究会)、境界層の熱と水蒸気をポーラーロウ内に配分する役割を担っている海上の積雲対流を直接解像することは、その形成メカニズムを理解する上で意義深い。

 ここでは、気象研究所非静力学メソスケールモデル(斉藤・加藤、1999=気象研究ノート)の並列バージョン(斉藤ほか、1999=秋季大会予稿集B306; 2000=春季大会予稿集B305)を用いて、日本海ポーラーロウを2km分解能でその発生初期から再現する試みを行った。

 

2.結果の例

 扱ったケースは1997年1月21日から22日にかけて発生した日本海ポーラーロウで、Fu et al.(2000=Mon. Wea. Rev.に投稿準備中)で解析されているのと同じ事例である。モデルの大きさは (362×362×38)、水平分解能2kmで、氷相を含むフルモデルを用いている。実験は柳瀬ほか(2000=本予稿集)と同様、1月21日00UTCを初期値とする気象庁RSMの結果に並列モデルをネスティングし、同じ21日00UTCを初期値として21時間のランを行った。シミュレーションでは実験開始後12時間ごろから渦が顕在化し、15UTC以降は閉じた等圧線をもつ低気圧性循環となって日本海を南下した。16UTCには右図に示すようなスパイラル型の雲を伴う明瞭な渦となり、位置・形状とも同時刻のGMS画像(図1)と概ね良い対応が見られる。鉛直積算した全水量(図2上)と雲水量(図2下)との比較から、全水量のうちかなりの割合を氷相が占めている(最大値はそれぞれ10.0Kg/m2と2.5Kg/m2)ことがわかる。ポーラーロウ付近の雲水量の鳥瞰図を図3に示す。今後、雲を解像することによる渦の力学に対するインパクトなどを調べていく予定である。

 

図1 1997年1月21日16UTCのGMS赤外画像

 

 

図2左:16UTCの鉛直積算全水量。

右:鉛直積算雲水量。等値線は 0.05, 0.2, 0.5, 2.0 Kg/m2の4本で、0.2 Kg/m2以上を濃さを変えて塗りつぶしている。

 


 

図3 図2矩形内の雲水分布の鳥瞰図