気象研究所/数値予報課非静力学モデルの全球バージョン

斉藤和雄(気象研究所・予報)

 


. はじめに 

非静力学モデルは、これまでメソ現象の研究を目的とした雲解像モデルとしての利用が中心だったが、最近では気候研究への応用も考えられるようになってきている。前回の講演(斉藤、2000=秋季大会B209)では、気象研究所/数値予報課統一非静力学モデル (MRI/NPD-NHM: Saito et al, 2001=気象研究所技術報告; http:// www.mri-jma.go.jp/Dep/fo/mrinpd/INDEXJ.htm) について、球面上の直交曲線座標系に対応できるように拡張した結果について報告した。今回は斉藤(2000)のモデルを全球モデルに拡張した結果を報告する。

 

. 全球化の手法

球面上の直交曲線座標系 (x, h, z)を用い、x, hに沿ってのマップファクタ m, n と3方向の曲率項、コリオリ項を評価する。投影法として基準緯度j0(通常赤道)で m, n が共に1となる円筒正距座標系を用いて、運動量を予報変数とするフラックス形式にしている。東西を周期条件とし、極およびその隣接点の値は、極を取り巻く周囲の点の予報値を内挿して与えた。極を横切る風を表現するために、風については経度0を基準とする絶対座標系についてのベクトルに変換して内挿を行ってから、x, h成分に逆変換している。モデル上端のレーリー摩擦による吸収層は省略した。これらによって境界条件なしに積分が可能になった。

モデルは物理過程やリスタート、多重ネスティングを含むMRI/NPD-NHM逐次実行版の機能を一切損なうことなく全球化オプションを追加してあり(但し現状では全球モデル時の力学コアはHI-VI法のみ)、同一ロードモジュールを用いて実行時パラメータの変更のみで全球モデル/領域モデルの切り替えが可能である。

 

. 結果の例と今後

斉藤 (2000) で示した1999年3月1日00UTCの気象庁p面全球解析データを初期値に用いた場合の36時間予報の平均海面気圧場を下図に示す。水平分解能は経緯度とも1.5度(242×119)、鉛直座標はこれまでと同様である(38層)。地面温度の初期値と海面水温は、便宜上初期値の最下層の大気温度で代用している。前回のモデルでは、ドライモデルでも36時間積分で平均海面気圧が2.6hPa低下する質量欠損が生じるなどの問題があったが、今回のモデルでは降水過程(この例では雲水を予報する湿潤対流調節)を用いても、36時間の平均海面気圧の変化は0.3hPa以内に収まっている。

大規模並列計算機対応バージョン(室井ほか=本予稿集)への移植、極の扱いの改善、重力波の扱いやセミラグランジアン法等、長期積分を効率的に行うモデルにするためには、まだ様々な課題を残している。