写真の解説 
竜巻は主に積乱雲に伴って発生する、細長く、非常に激しい渦です。渦の直径は平均的には約100mで、風速は100m/sを超えることがあります。この風速では、ほとんどの構造物は破壊されてしまいます。竜巻がもっとも多いのはアメリカで、年間平均1000個以上も発生しています。アメリカでは被害も大きく、竜巻による死者はハリケーン(台風)によるものより多いほどです(平均)。日本でも竜巻は年間20個ほど発生し、そのうち1/4は台風に伴って起こっています。

●自然界での竜巻渦の発生
強い竜巻は、スーパーセルと呼ばれる特殊な積乱雲の中に作られるメソサイクロン(直径10kmくらいの小規模な低気圧)に伴って発生します。メソサイクロンに伴ってゆっくりと回転している空気が積乱雲の中心の上昇流で集められ、集中した強い渦(竜巻)が作られると考えられています。しかし実際にどのような過程をへて竜巻が起こるのか、など、竜巻について分かっていないことはたくさんあります。

●室内実験の解説/実際の竜巻との対応
実験では、高さ2.0m、半径約1.1mの8角柱形の部屋を作り、天井の中央に工事用の送風器*を逆向きに取りつけて吸い込みを作っています。 (→装置の概略図) これは上空のメソサイクロン内部の上昇流を表しています。
しかし単に送風器で吸い込んだだけでは、外から入ってきた風は中央付近で上に持ち上げられてモヤモヤとたちのぼり、天井に吸い込まれるだけです。
そこで、床面近くには、中心から半径1.1mの円周上に8個の小型扇風機**をおき、円周方向に反時計回り***に風を送るようにしてあります。 8角柱の壁面は床から高さ50cmまで空けておいて、床面近くの空気だけがこの部屋に入ってくるようにしています。これにより、地面近くの空気は弱く回転しながら装置の中へと吸い込まれていきます。流入する空気が床面から50cmだけに限られているというのは現実的でないと思われるかも知れませんが、実際の大気では逆転層と呼ばれる安定な層があり、積乱雲へのあたたかく湿った空気の流入はこの層より下で起こることが多いのです。
床面中央にはドライアイスを入れた浅い水槽を置いて、発生する煙(細かい水滴)によって渦を可視化しています。実際の竜巻では、空気中の水蒸気の凝結による雲や、地表から巻き上げられた砂や破片によって渦が目に見えるようになっています。この装置でも水面近くで、吹き寄せられた水が強い上昇流によって持ち上げられ、遠心力によって飛び散る様子を見ることができます。
渦が強まってくると渦の中心部に流れ込む空気のほとんどは、床面近くからになります。床面から離れたところでは渦の外側の空気は遠心力のため渦の中心に向かって入り込むことができず、渦はちょうどパイプのように床面近くの空気を吸い上げるようになっています。

●写真の解説

これらの写真は羽田空港でのデモンストレーション(下参照)のときに撮影したものです。内壁は渦が見えやすいように黒く塗ってあります。上方の白く見えているのは吸い込み口です。床面の黄色い円は観客が水槽に踏み込まないように描いてあるもので、実験とは関係ありません。
上の写真で見えている渦の直径は5〜10cm、高さは2mです。

*送風器(円筒形) : サンキテクノス社製 ポータブルファン PF-281Y
直径:30cm 風量:最大60m3/min を30〜100V(0.15〜0.62m3/sec)で使用

**小型扇風機 : 泉精器製作所製 イズミクリップファン EF-106
直径:20cm 風速:最大1.75m/s を50〜100V(0.7〜1.4m/s)で使用

***北半球で観察された竜巻は90%(日本での統計は85%)までが反時計回り(低気圧の回転と同じ向き)であるといわれています。少しでも時計まわりの竜巻があることから竜巻の運動に直接地球の回転の効果が効いていないことは明らかですが、竜巻は温帯低気圧や熱帯低気圧にともなって起こることが多く、これらの流れは地球よりも速く反時計まわりに回転しているためではないかと考えられています。



この装置は日本流体力学会30周年記念小中高校生向けイベント「流れの不思議実験室」(1998.7.27.工学院大学)のために製作、展示されたものです。
その後、羽田空港での「天気の不思議展」(1998.8.8〜16)でも展示されました。

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This page was updated on May 13, 2004.